ボクココ

個人開発に関するテックブログ

クレジットカードと下請け構造

ども、@kimihom です。

SaaS サービスを運営していると、クレジットカード決済の処理を提供することが多い。んで基本的に支払いはクレジットカードのみとしているため、一部のお客様は「請求書払いにできませんか」という問い合わせを数回は経験することがある。日本企業の支払いの構造について学んだことをメモする。

f:id:cevid_cpp:20170225223852j:plain

企業における文化やプロセスの違いを理解する

今まで会社間の取引は基本的に「請求書」でのやりとりだった。企業が企業に対し、「〜円を請求します」という表を渡して、それを経理が確認し、支払先へ振り込む。そんなフローを経験したことのある人もいるかもしれない。私は社会人からずっとインターネット企業に勤めていたため、その文化を一切経験してこなかった。エンジニアとしては"会社のお金を使う"みたいなシチュエーションがほとんどなかったので意識してこなかったというのもある。

請求書ベースのやりとりによって、会社のキャッシュの IN/OUT を管理する人を配置することで、今後のキャッシュの見通しなどを分析できる部隊が"経理"という枠組みだと理解した。請求書払いをクレジットカード支払いにしてしまうと、経理を通さずに支払いってことになってしまうので、企業の持つ色々な承認フローや支払い方法を変えないといけなくなってしまう。だからクレジットカード払いっていう新しい支払い方法に対応したくないケースが多くあるとのことだった。

何より会社のカードを誰がいつそのカード番号をどこかに入力し、どこがいくら決済するのかが不透明になるってのは一抹の不安があるのかもしれない。

実はさらに大きなハードルがある。間にいる業者問題である。

今までの IT 製品って、間に営業代行会社がいて、彼らが色々な企業に IT 製品を売りに行くという方法が一般的なようだ。

それはそれで良いのだが、間の業者が入ると起きる問題として、"プロダクトの正規料金を IT 製品側で大きく載せてしまうと、その間の業者の取り分がなくなってしまう" という点がある。だから大きなエンタープライズ向け製品であればあるほど、提供元のサイトでは料金を載せない方針をとっているか、わざと料金を高めにセットして、間の業者経由だと安くなりますよといった方法で販売しているケースがあるとのことだ。

このようなケースの場合、請求書払いにすればその料金を間の業者が自由に発行できるため、色々と都合がいいのだ。料金は営業代理店的なところが自由に発行して管理することで、儲けを生み出すことができる構造だ。このような販売方法が確立された世界においては、サービス提供元と利用者が直接取引されると儲けがなくなってしまうのである。こういう話って、スタートアップ界隈にいると割と衝撃的な話に聞こえる。今やどんなクラウドサービスだって自社サービス経由で販売し、堂々と正規料金を載っけている。

このような方法で大きな利益を上げている企業もいるってのは理解しておくと良いだろう。


さて、上記ケースを踏まえた上で SaaS プロバイダである私たちが対応しなければならないことは何だろうか。

必ず領収書を発行するようにする

“この日にこの金額を支払っていただいたよ” と証明する資料を用意してあげることで、ほとんどの企業で対応が可能になる。そのため、サービス内で領収書を発行できるページを用意し、PDF でダウンロードできるようにしておこう。そうすれば社内の人が PDF をそのまま経理に渡せば良いこととなる。請求書などは発行できないけども、割と領収書だけで何とかしてくれるケースが多い。

それでも、「支払いの承認が~ 」とかって話で請求書も必要みたいな会社もいるだろう。そのような企業がよく SaaS を使おうと思ってくれたな、と逆に感心するが、そのような場合だけ特別に対応するようにはしている。ただ、そんな企業が増えていけば自ずと請求書もダウンロードできるような仕組みが必要になるのかもしれない。

これはサービスを使っていただく企業がどんな特性が多いか(レガシーな企業が多いか、スタートアップが多いか等)を検討した上で、どうすべきかを考えるべきだろう。大抵、領収書の PDF をダウンロードできるようにするだけで良さそうな感覚は持っている。

サービス提供者側から"発信"する

知らない営業から勧められたサービスを使うってのではなく、自分で調べて人は評判をもとに SaaS サービスを使い始めるって流れになりつつある。そのような状況で大事なのは、SaaS サービス提供者側から、正しい情報を発信するってことだと思う。積極的な情報開示によって企業はその会社を信頼してくれるし、使ってみたいと思ってくれることだろう。

これを怠った状態で Web ページを載せるだけ。そんな方法で顧客はどうやってサービスを使うという判断をしなければならないのか。顧客がそのサービスのページを覗いて「色々あってわからない」という判断をされれば、それはよく知っている誰かに相談して、その人のおすすめに従うようになるだろう。"よく知っている誰か"は紹介フィーをもらうためにその企業と交渉するようになるので、結局 先ほどの営業代理店的な話になって行ってしまうのである。

営業代理店がサービス提供元以上にサービスを理解し、正しい顧客に販売することなどできるのだろうか。彼らにとってはただ売上が上がれば良い認識であることが多い(反論もあるだろうが、そう思っている人は必ずいる)。それで運用保守はサービス提供者側任せなので、なりふり構わず売れそうな商品を売り抜くことをするだろう。それで間違った顧客を獲得して大変なサポートをしなければならないのはサービス提供者側の方だ。今やインターネットを通じていい商品はユーザーが勝手に調べて勝手に使い始めてくれる時代になった。大事なのは"評判"である。評判をあげる努力をサービス提供者側がやっていけば、営業はそもそも必要ないのだ!この SaaS としてのトレンドは今後ますます顕著になっていくと思われる。

顧客が正しいサービスを選択でき、サービス提供者側と顧客の両者が幸せになるには、顧客のサービスに対する正しい理解が必須なのである。

クレジットカード支払いの時代になるのは不可避

今後はクレジットカード支払いがますます一般的になることだろう。特にクラウドサービスを使うってなればなおさらだ。 あの有名な AWS もクレジットカードを登録しなければ利用できない。その中で導入企業を見てみると、とんでもない大企業の事例がある。つまり、どんな大きな企業でもクレジットカードを発行しているのだ。企業が諸事情でクレジットカードを発行しないなんてことは今後なくなって来るし、カードを持たない体制では時代に取り残されるような時代がやって来るだろう。

だから、SaaS サービスでクレジットカード払いのみにする方法を恐れる必要はない。その企業が今はクレジットカード払いがダメだという判断になっても、近い将来にクレジットカード払いが使えるようになる日が来る。その日が来るまで待つのだ。目先のちょっとした利益のために、余計な仕事を増やしてはならない。

終わりに

私自身、社会のお金の動きの構造などを理解してなかった面があるので、今回はその分野に詳しい方からお話を聞いた情報をもとに書いた記事である。

今後、IT エンタープライズの時代から、クラウド SaaS になっていくにつれ、人々の IT との関わり方が変わっていくかもしれない。私たちはそんな時代の変化の真っ最中にいるのである。