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金銭モチベーション時代の終わり

ども、@kimihom です。

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今回は以下の本を読んだので、その感想と今のインターネット業界に広まる悪しき認識について記そうと思う。

モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか (講談社+α文庫)

モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか (講談社+α文庫)

金銭目的での動機に創造性は存在しない

本書で「ロウソク問題 Wikipedia 」という大変興味深い実験とその結果が記されている。簡単に概要を記すと、ロウソク問題を解いてもらう2つのグループ(解けたら金銭を支給、単に解かせる)に分けたところ、金銭を受け取らないチームの方がより早く問題を解けたのである。

この実験からわかるのは、「人は本来の目的とは異なった利益(報酬) が得られることがわかると、単純思考になって創造性が失われる」という点である。目の前の報酬(お金)のために、創造的な思考が蝕まれ、独特の考えや解決策が出てこなくなるのだ!

当然、これは日常生活でも同じことが言える。「〜円払うから、デザイン考えてみてよ」っていう餌のあげ方だと、人はお金のためにアイディアを絞り出そうとする。「〜円払うから、システム作ってよ」って言われたら、とりあえず完成すればいいのでとんでもないクソコードでも気にせずに酷いものができあがる。創造性を必要とする現代の仕事において、金銭による報酬はろくな結果を生まないのである。


ここまで読んだ時点で、きっと「はいはい、それは金持ちが言えるたわ言だろ。お金がなきゃ生きていけないじゃん」っていう話が出てくる。それは一部正解で一部誤りだ。

人はお金がなきゃ生きてはいけない。このベースラインはまず確実に持たねばならないことは、今も昔も何も変わっていない。別に私はお金はイラナイモノって言っているわけではない。だが、"生きていける" っていうベース金銭が得られるようになってきたら、話が全く別のものになる。

昔であれば考える必要のない単純作業が多かったので もっと働けばもっと金銭が得られるっていう単純な答えを元に、短期的に仕事を頑張ってまた次の報酬に向けて努力するってのがまかり通っていた。

しかし、現代は違う。生きていけるベースが整った後の、金銭的報酬は返って仕事の成果を低くさせ、その人の成長を阻害させる。「お金のために考える」ようになったら、その人の創造性における成長は終わった ことになるなのである。まるでロウソク問題を金銭目的で解くようになった人たちのように、ね。

給料は麻薬みたいなもの

本書で他に実に面白い話が出てきている。

子供にゴミ出しをさせるために、「100円あげるからゴミ出しに行ってきて」という金銭目的で子供にゴミ出しをさせにいく。すると、その子供は確かにゴミ出しに行ってくれる。しかし問題はそこからだ。その子供は、以降お小遣いをあげない限りゴミ出しに行かないのである!しかも、前の金額より高いお小遣いを要求するようになり、50円を払ってもゴミ出しには行かないのである。金銭目的でゴミ出しに行かされ続けた子供の将来は、とても危ういものになる。その子供は、簡単にお金が稼げるようになる方法を探し続けるようになるのである。お金が全て!な人間の完成である。

何においても、お金ってのは本来の目的とは違う目的に変わってしまうようになる。先ほどのゴミ出しの例で言えば、本来であれば「家を清潔に住み心地の良い環境に保ち続ける」というのが本来の目的であろう。一般的に、お金っていうはっきりわかる利益より、こうした本来の目的ってのは利益を得られるのに時間がかかったり、利益を感じづらいという点がある。これは、まさに短期的報酬か長期的報酬かの違いである。

本書では、「給料は麻薬のようなもの」と記されている。一度金銭の報酬の旨味を知ってしまうと、その旨味の虜になって、後には引き返せなくなってしまう。しかも麻薬でもっと濃い/多いものを求めるのと同じように、もっと大きな金銭を要求するようになる。うん、そう考えると麻薬と完全に同じだね。

今のインターネット業界は、この金銭の麻薬に取り憑かれている。エンジニアは高い給料だけを求めるようになり、そのために短期的な勉強だけに精を出す。企業は高い給料を払えばいいエンジニアを雇えると挙って高い給料でエンジニアを釣り上げようとする。

NECは新卒1000万、NTTは1億円 研究者待遇、世界基準に :日経ビジネス電子版

一見すると、こうした記事は「エンジニアを重要なポジションだと考えているいい企業だ」と考える人が多いだろう。だが、実際はそんな高い給料で入ったエンジニアは、給料のために働くようになって、ろくな成果を生み出さないのである。単に仕事のために技術を学び、自分から新しいものを考え出したり生み出したりしないようになる。私が思うのは、給料で釣れば、採用した時点では良いエンジニアが取れるかもしれないけど、そのエンジニアはそれ以降、何も成長しない人材になる未来しか見えないのである。

これは歴史が物語っている。空を飛ぶために大金をはたいて開発させた企業ではなく、お金も人もいなかったライト兄弟が初飛行を成功させ、大金をはたいて Web 辞典を作り出そうとした企業は全て消えて Wikipedia が今も残り続けているのだ。必要なのは金じゃなく、心の底にある本来の動機なのである。

本記事に対して否定的な考えなあなたへ

この記事は、「確かに!」って思う場合と「いやいや、結局金だろ」って思う場合の2パターンがあるに違いない。

後者の考えを示した方は、まさに本記事でいうお金の麻薬に取り憑かれたか、そもそも生きる基準に達していない給料か、普段の仕事が何も創造性を必要としない単純作業なのかのどれかになるだろう。

先の「ロウソクの問題」でもう一つ興味深い実験結果が報告されている。それは、創造性を必要としない、単に「描画を刺すだけ」の問題とも言えないような問題であった場合、金銭を提供するグループが最も高い成果を出したのである。

結局、お金のことばかり考える人たちが多いってことは、現代も創造性の不要な仕事ばかりということなのかもしれない。とりわけ日本人はこうした単純作業を何も考えずに黙々と残業してやり続けることが得意だったってのもあるだろう。それで良いって人はそれで良い。これからの時代に求められる仕事が何か、そんな未来志向があるかないかの違いだけなのだから。

終わりに

ここまで書いて、改めて私の決意について記しておこう。

私は、今もそしてこれからもお金のためには働かない。お金のために働くことになった時点で、それは日本人誰もがイメージするような "The 仕事" となる。私は給料や金銭をひっきりなしに求めるようなエンジニアにはならない。仕事を仕事だとは考えない。仕事は自分を成長させる、自分のまだ見たこともない世界を作り出す。そのために仕事を、いや "遊び" を続けるのである。

そんな私が作り出す新しいものを、新しい世界を、楽しみにしていてほしい。