故スティーブ・ジョブズがアップルをどのように変えてイノベーションを生んでいったのか、のお話。
まず前置きとして私は熱狂的Apple信者ではないことを付け加えさせていただく。
シンプルであること
この"シンプル" というのはアップルのこれまでの道のりにおいて全てを凝縮したような言葉だ。本書ではジョブズの側近で広告を担当した著者がそのエピソードとともに綴ったエピソードである。
まずシンプルを信じ実践すれば、
あなたは変化を生み出す側の人間になれるし、チームのメンバーを正しい道に導けるし、会社において価値ある人間だと証明できるのだ。
とある。なるほど、あそこまで成功したアップルが貫いた哲学がそうであるなら、そうなるであろう。ではどうすればシンプルであるようになれるのか? それは言動だ。
スティーブは自分が実行している率直なコミュニケーションを他人にも求めた。もってまわった言い方をする人間にはがまんできなかった。要領を得ない話は中断させた。時間は貴重でムダになどできないというスタンスでビジネスを動かし、それはアップルの現実をよく反映していた。
まさにこれは日本で言う「空気を読む」という言葉を一蹴する内容だ。出る杭は打たれる。何か尖ったことをしようとすると既存利益に授かったものたちが一斉にその杭を打つ。だから周りに合わせて行動することが無難でよいと推奨される世界。そこからは何もイノベーションは生まれない、ということだ。
本書の中で特に目立った、シンプルで攻めて成功するための条件があった。
あなたの組織に才能のある人材がいるならば、シンプルさのルールを重視することで、コストは下がり、仕事は早くなる上に質も上がるはずだ。そしてもっとも重要なことに、効率も良くなる。
この「才能のある人材」というのがシンプルな組織で成功するための秘訣だ。その才能のある、というのはどういうことなのだろうか。私は自らが自らの意志でより改善できる道を提案し、それを実行に移す能力だと考える。そうすればルールが無くても常に良い方向へ改善していくことができる。
だが一般的な組織のあり方として、「マニュアルや仕組みをつくり、一定水準の誰でも行えるように定式化すべき」とある。フランチャイズなどの店舗はいい例だ。アップルはそうではなく、一部の有能なメンバーのみで重要な会議を開き決定し、実行するサイクルを生み出していたのがよかったのではないだろうか。
以前アップルにつとめている方の話で、当日になるまでどんな製品がでるのかすらもわからない、と嘆いていたことを聞いたことがある。情報共有は必要最低限で他の余分な人へ情報は共有しない、というのも確かにムダの排除・シンプルにつながってくる。
そしてシンプルさを決定づける最も重要なことを本書ではこのように記している。
シンプルさを追求するには、あなたの行動と言葉の全てに浸透しているコアバリューを持たなければならない。
生まれてから今までで、自分は何を基準に行動して生きてきたのか?これは私の経験ではとある重大な失敗や大きな成功から生まれてくるものが多いように思う。それを「自己分析」して自分とは何かを突き詰めてみる。会社も同じでこの会社はどんな軸で行動していくのか?それを念頭においてビジネスを進めていけば重大な選択に迫られた時でもシンプルな回答が得られるのだ。
その他エピソード
本書の後半は「この場面でジョブズはどう感情を表し行動したか」が記されている。
読んでいるうちに、これは聖書に似ていると感じた。ジョブズという神が目の前のものに対してどういう哲学で行動したのか。その事例が所狭しと書かれている。
そのため私は後半はあまり読む気力が起きなかった。あらゆる事例があるものの、ジョブズの根幹にある「シンプル」という哲学に基づいて行動した結果しか書かれていないからだ。
それならもう自分のコアバリューを探し出すことに集中して自分がシンプルのもとに行動できるようにしたほうがいい。
所感
前半は Apple の Why について書かれており大変興味深く読ませていただいたが、後半は What が多く、少し読み飽きる部分があった。 流されやすい時代において、コアバリューをもとに行動する事の大切さを教えてくれた一冊だった。