前回(下)の続き。
エンジニアによるファイナンス訓練 (企業価値評価編) - ボクココ
企業の最適資本構成
企業における、負債と株式の割合はどのように配分するのがベストなのだろう?
ROA と ROE
ROA (Asset)
利益を総資産で割ったもの。透過した資本に対して、どれだけの利益を上げたか。
ROE (Equity)
利益を株主資本で割ったもの。株主が透過した資本に対して、どれだけの利益を上げたか。
これはトリックを使える。利益が変わらなくても、株主資本を減らせば(負債を増やせば)ROEは高くなる。そのため、負債と株主資本の割合はROEに大きく関わる。この比率を「財務レバレッジ」という。
最適資本構成を求めることにトライ
MM理論
「税金やコスト等がない完全資本市場では、負債、株主資本の資本構成は、企業価値に影響を与えない」
だが、 法人税を考慮すると、この原則が乱れる 。
負債には節税効果があり、利益が亜一定であれば負債による節税分だけ負債を持つ企業の方が企業価値が高まる。
-> だが実際には有利子負債が少ない企業が業績が良かったりする。なぜか。
財務破綻コスト
負債には返済義務があり、返せないと財務破綻に陥る。こうなるリスクがあるため負債ばかり抱えるとそのリスク(財務破綻コスト)が高まる。つまり、財務破綻コストと負債による節税効果のバランス。この考え方を「資本構成のトレードオフ理論」という。
結局の所
財務破綻コストを定量化することは困難なため、最適資本構成を求めることはできない。現実的な点をふまえて資本構成を決める。
ただ、そもそもどこから資金調達すべきかの優先度によって資本構成が自然に決まる方法がある。
ベッキング・オーダー理論
「企業が資金を必要とする時は、まず内部資金を利用し、外部資金調達が必要な場合は、最も安全な証券から発行すべき」
つまり、内部留保 -> 銀行借り入れ -> 普通社債 -> 転換社債 -> 普通株式
。この優先度の高い順で資金を調達し、資本構成を作るという考え方。
ただし、事業リスクが大きい事業は仮に負債が無くても倒産危機に陥りやすいため、負債比率が低くなる傾向がある。-> ベンチャーのエクイティファイナンス
配当政策
株主に対してどのような配当政策をするのがベストなのだろう?
配当政策・・利益を株主に還元するか、あるいは企業の内部に留保し、優良な投資機会に再投資するかを決めること。詰まる所、
配当政策がどうであれ、企業の生み出すキャッシュフローは一定、つまり株主価値は変わらない
配当で1万円配って株価はその分下落でも構わない。株主にとっては1万円を企業に預けるか自分の手元に置くかの違いだけ。
ただ株主への安定的な配当の支払いがあることを内外に知らせることで評価を得る作戦などが考えられる。
株主に資金を還元する方法
- 配当
- 自社株取得・・負債で調達した資金を使い、自社株の取得を行なうこと
株主の株を企業が買い取る。事実上、特定の株主の株がなくなって現金として返ってくるだけ。
自社株取得の目的
- WACC の低下 -> 企業価値の高まり -> 株価の上昇が狙える。
ただこれは、資本構成を変えるという行動が株価を変動させただけに過ぎない。
経営陣が現在の株価は割安であると判断した。そういう風に他の投資家は思う (シグナリング効果)。割安だと買収される恐れが出てくる。
ストックオプション・・企業が役員や従業員に対して一定の価格で自社株を購入できるオプションのこと。ストックオプションを用意するために予め自社株を取得して手当てする必要がある。ストックオプションが行使されたときに速やかに対応できるようにするために。
次回
債券価格や株価はどのようにして決まるのだろう?そしてより現実的な企業価値評価についての実践。
次回、資本市場理論編。