ボクココ

サービス開発を成功させるまでの歩み

Twilio によるコミュニケーションの未来について考えたこと

ども、@kimihom です。今週の1週間をかけてサンフランシスコへ行って先ほど帰国した。目的は Twilio が毎年開催するイベント Signal への参加だ。 今回の Signal で Twilio が大きな方向転換をしたように見受けられるので、その点について記す。

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Twilio の変化

今までの Twilio と言えば、「API」だった。私たち開発者は Twilio の提供する強力な API を用いて、コミュニケーションのサービスを自在に開発することができた。だからこそ、Uber や Airbnb、 Zendesk など、大成功したスタートアップがこぞって Twilio の提供する API を利用しているのである。そして Twilio はアメリカを中心に急成長を果たし、去年上場した。このとき、証券所の前で Twilio CEO が大きく "API" の旗を掲げていたのが印象的だった。

とはいえ、API は API だ。何か一つの"モノ"を作り上げるには、その API を利用して何らかの開発が必要になる。Twilio はこの点に関して明らかに去年から意識が変わり始めた。そして今年の Twilio Signal で、コミュニケーション"ルネサンス"と称して大きな方向転換を決断したように見える。

その象徴とも言えるのが、 今年の Signal で正式リリースを発表した Twilio Flex である。

Twilio Flex とは何か

Twilio Flex は、開発者が自由にカスタマイズできるコンタクトセンターのプラットフォームだ。企業が社内外でコミュニケーションをする上で必要な土台が提供され、ユーザーは Twilio Flex だけを利用してコンタクトセンターを構築することもできるし、Twilio Flex を拡張して自社向けに最適化して利用することもできる。 これを Twilio は "Customer Engagement Platform" と呼んでいた。

Salesforce でいう AppExchange のような、第三者が開発した Twilio Flex の拡張アプリケーションをマーケットに配布できる「Extension」の仕組みも同時に公開している。この Extension により、コンタクトセンターで一般的に必要になるであろう拡張機能(CRM連携など)を Twilio Flex に埋め込むことができる。 そして、今後はコンタクトセンター界で注目されている AI の仕組みの提供も Twilio Flex で準備中とのことだ。AI の発展によって人の手を介することなく、コンタクトセンターを運営することができるようになる未来が近づいている。

Twilio Flex でとりわけ大きな特徴がオムニチャネルだろう。Twilio Flex を利用すれば、今まで Twilio が提供してきたチャネル(電話、SMS、チャット、ビデオ、ソーシャルメディアなど)を Flex に取り込んでまとめて利用することができる。さらに今回発表した Sendgrid の買収によってメールもチャネルの一つに加わり、現時点で使われるコミュニケーションチャネルの全てを手に入れたと言っても過言ではない状態となった。

今回の Signal で発表されたリリースで、明らかに Twilio は Flex を推していく方針が見受けられた。Twilio Signal にはメインのキーノート以外に多くのセッションが用意されているが、Twilio Flex に関する講演が大量に用意されていたのである。今まで何か新しいプロダクトが発表されたとしても、それに関するセッションは1つか2つ程度だったが、今回は Twilio Flex に関するセッションだけで8つも用意されていた。

Twilio が Twilio Flex をサービスとして成功させるには、顧客ごとに最適なシステムを作り出せる SIer の存在が必要不可欠だ。従来の Twilio ではとりわけ Zendesk のような SaaS が大きく紹介されていたが、今回の Signal から SIer をより前に押し出しているように感じた。SIer が集まる独自のミートアップを Twilio 側で用意したり、SIer が登壇するセッションも用意されていた。

この方針を見て思うのは、方向性が Salesforce と同じだという点である。

Twilio の Salesforce 化

Twilio が目指すのはコンタクトセンター業界での Salesforce だろう。Salesofrce のように、CRM 自体を開発者がゼロから作らせることはせず、CRM の拡張機能をサードパーティに作ってもらう方針である。

去年の Twilio Signal では、 Twilio CEO と Salesforce CEO のトークセッションが用意されて盛り上がったし、Twilio の執行役員には既に Salesforce 出身の人が何名かいる。今回の Signal の中でも、Salesforce と Twilio Flex の連携についてのセッションが露骨(?)に用意されていた。

それほど Salesforce はインターネット業界で大成功した先駆者だ。既に Twilio はビジネスとしてうまくいってるのにも関わらず、彼らは新たに大きな方向転換を決断したのだ。

考察

去年の Twilio Signal では "Why isn't that an API?" って言葉がものすごく強調されて、"あらゆるものをもっと API で提供すべき!"みたいな方針だったのに、今年は API って言葉をあまり聞かなくなってしまった。今回の Twilio からの新発表は本当に Twilio Flex くらいしかなくて、この1年で TWilio は Flex の開発しかやってこなかったんじゃないかと疑ってしまうほどだった。

Twilio が今まで提供していた API だけでは、基本的に新しいものを開発するエンジニアが SaaS や小さなツールを提供するに留まっていたように思う。 そこで Amazon Connect の登場が、Twilio に脅威を与えているのだと推測している。彼らも Twilio Flex に似たような思想で Amazon Connect を昨年リリースし、エンタープライズ企業を中心に利用が増えている。だからこそ、今回の Twilio Flex の発表は、Twilio がエンタープライズで使われるようにするために必要な選択だったのだろう。

日本でもしばらくすれば Twilio Flex や Amazon Connect によって、エンタープライズのコンタクトセンター市場が変わっていくことだろう。コンタクトセンター自体の利用にかかる料金は急激に下がり、自社でどうしても必要になる拡張機能だけ外部の SIer に依頼するような形となる。開発者は個別に開発案件を受けるでもいいし、世界に向けて Extension のアプリケーションを開発して公開することもできる。

ではコンタクトセンターの SaaS はどうなるのだろう?この発表で、 Zendesk のことを真っ先に思い浮かべた方もいるかもしれない。Twilio としては、発表の中で Twilio Flex の登場は Next SaaS とも言っていた。そこで SaaS よりも柔軟でスケーラブルだということを強調していたのである。確かに柔軟性を求める組織が SaaS のような決まった枠の中で利用し続けていた場合には、Twilio Flex の利用によって大きな効果を期待できるだろう。 ここからは私の意見になるが、Twilio Flex で効果が得られるのは実際に自ら/外部の開発会社が拡張できる時間/人手/資金があるか、最適なサードパーティ製の Extension があればの話である。そのため、スタートアップや中小規模の組織では今後も SaaS の必要性が残り続けると感じている。なぜなら彼らは最初から Twilio Flex や Amazon Connect のように柔軟にカスタマイズできる必要はないし、それにかける時間もないからだ。そうした組織では設定が少なくてすぐに使い始められるサービスの方が今後も求められるはずである。とはいえ SaaS が今後も安泰かと言えばそうではない。一つの新しいコンタクトセンターの選択肢ができたということは脅威に感じるべきだし、それを踏まえてビジネスを展開する必要がある。

今回の Twilio の発表で私が恐れているのは、Twilio が Twilio Flex に力を入れすぎるあまりに、従来の Twilio の強みであった API の要素が薄れてしまっていくかもしれないという点である。今回の Signal の中で API の側面での新しいリリースはびっくりするくらい無かった。今後、Twilio Flex ではできるけど API としては提供しないといったことが起こるのなら、Twilio 以外の API サービスの利用も検討しなければならないだろう。これはきっと他の SaaS 運営者も同じことを思っているはずだ。

コンタクトセンター関係者は、ひとまず Twilio Flex を使ってみないとより正確な判断はできないだろうから、私も含めて正式リリースとなった Twilio Flex を使ってみたいところだ。

終わりに

Twlio Signal に参加することで、Twilio の持っている温度感を感じ取ることができた。こういうのって実際にカンファレンスに行かないと味わえない部分なので、行って良かったと思う。来年は8月に開催予定とのことだが、できればまた参加したい。

今回の Signal の報告会はイベントが開催される予定のようなので、もし Signal の他トピックのことも興味があれば参加してみてほしい。未来のコミュニケーションについて語り合おう。

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